「白内障の手術を受けるよう言われたけれど、本当に必要?」「手術って怖い」「いつ受けるのがベスト?」――白内障手術は、日本で 年間約160万件 行われている最も身近な眼科手術ですが、いざ自分が受けるとなると不安は尽きません。
このページでは、患者さんからよくいただく「いつ受けるのがいい?」「日帰りで本当に大丈夫?」「術後はどんな生活?」「眼内レンズはどう選ぶ?」といったご質問にお答えする形で、白内障手術の全体像を整理してご説明します。
白内障の病気そのものについては 白内障の解説ページ を、選べる眼内レンズの違いは 多焦点眼内レンズの解説 もあわせてご覧ください。
白内障手術とは
白内障は、目の中でカメラのレンズに相当する 水晶体 が濁って視界がかすむ病気です。一度濁った水晶体は、点眼薬では透明には戻りません。視力を回復させる根本的な治療は、現時点では手術のみです。
現在、日本で行われている白内障手術のほぼすべては、
超音波水晶体乳化吸引術(PEA:Phacoemulsification and Aspiration)+ 眼内レンズ(IOL)挿入術
という手技です。簡単に言うと、
- 角膜の端に2〜3mmの小さな切れ目を作る
- 超音波で水晶体を細かく砕いて吸引する
- 折りたたんだ人工レンズ(IOL)を入れて、眼内で展開する
という流れです。所要時間は 片眼15〜20分程度、多くが日帰り手術として行われます。
適応:いつ手術を受けるか
「年齢ではなく、日常生活の不便さで決める」のが基本です。視力の数字だけが判断軸ではありません。
手術を検討するタイミング
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 視力 0.7 でデスクワーク中心、生活に支障なし | 手術を急ぐ必要なし、定期観察 |
| 視力 0.9 でも夜間運転がつらい | 手術を前向きに検討 |
| メガネを変えても改善しない | 手術検討段階 |
| 道路交通法の運転視力基準(0.7)に届かない | 業務ドライバーは早めの手術が望ましい |
| 緑内障や他の眼疾患併存 | 早めの手術が安全な場合あり |
「運転がつらい・読書がつらい・趣味に支障が出てきた」 ――そのタイミングが、多くの方にとっての手術検討の入り口です。
あまり向かない・慎重な場合
- 全身状態が極端に悪い(手術リスクが利益を上回る)
- 認知症が進行し術後の協力が難しい
- 重度のドライアイ、ぶどう膜炎の活動期
- 角膜内皮細胞数が極端に少ない
ほぼすべての方が手術可能ですが、上記の方は適応を個別に慎重に検討します。
手術の流れ
1. 術前検査(複数回の通院)
- 視力検査・屈折検査
- 眼軸長測定(レンズの度数計算)
- 角膜形状解析
- 角膜厚・角膜内皮細胞数
- 眼底検査(網膜の状態確認)
- 全身状態の確認(内科で診察)
特に 眼軸長測定 は精度が直結します。ここで誤差があると術後の見え方にギャップが生じます。
2. 眼内レンズ選択
- 単焦点 / 多焦点 / トーリック(乱視矯正)を相談
- 「遠用」「近用」のどちらに合わせるか(単焦点の場合)
- 保険診療 / 選定療養 / 自由診療の選択
詳しくは 多焦点眼内レンズの解説 をご覧ください。
3. 術前準備
- 抗菌点眼を3日前から
- 食事制限はクリニックの指示に従う
- 服用中の薬は内科と相談(血液さらさら薬は通常継続のケースも)
4. 手術当日
- 来院後、点眼で瞳孔を広げる(散瞳)
- 点眼麻酔(まれに局所麻酔の追加)
- 手術台に仰向けで横たわる
- 強い光が見える、水が流れる感覚、軽い圧迫感
- 手術時間 片眼15〜20分
- 術後、保護のためのアイガードや眼帯
- 1〜2時間休んでから帰宅
「痛い?」が最も多い質問ですが、点眼麻酔で行うため 強い痛みはほとんどありません。「光がまぶしい」「水が流れる感覚」「軽い圧迫感」を感じる程度です。
5. 術後経過
- 翌日には視力が大幅に改善(個人差あり)
- 抗菌・抗炎症点眼を1〜3か月続ける
- 1週間は眼に水・洗顔料が入らないように
- 激しい運動・水泳は2〜4週間避ける
- 重い物を持つ、強い前傾姿勢は1週間避ける
定期検査スケジュール:術後1日、1週間、1か月、3か月、半年、1年。
6. 反対の目の手術
通常 1〜2週間後に反対の目 を手術します。万が一の感染・合併症のリスクを下げるため、片眼ずつ行うのが標準です。
費用の目安
保険適用(単焦点眼内レンズ)
3割負担の方の場合:
| 項目 | 費用イメージ |
|---|---|
| 検査・手術費 片眼 | 約4〜6万円 |
| 両眼合計 | 約8〜12万円 |
| 高額療養費制度適用後 | 自己負担上限まで |
高額療養費制度 を活用すると、自己負担が 月数万円程度 に抑えられます。
選定療養(多焦点眼内レンズの一部)
- 保険診療部分はそのまま保険、レンズの差額のみ自費
- 両眼で 約20〜50万円 が目安
自由診療(高機能多焦点IOL等)
- 手術費全体が自費
- 両眼で 約60〜140万円 が目安
医療費控除の対象になります。
リスク・合併症
白内障手術は安全性の高い手術ですが、ゼロリスクではありません。
| リスク | 頻度・対処 |
|---|---|
| 眼内炎(感染) | 0.05〜0.1% 程度だが重大。徹底した消毒で予防 |
| 後嚢破損 | 術中の合併症。多くは追加処置で対応可 |
| 眼内レンズの位置ずれ | まれに再手術が必要 |
| 後発白内障 | 数か月〜数年後に水晶体を支える袋が濁る。YAGレーザーで数分で解消 |
| 眼圧上昇 | 一時的、点眼で対処 |
| 網膜剥離 | 強度近視の方でリスクが少し高い |
| 角膜浮腫 | 高齢者、角膜内皮細胞数が少ない方で起きやすい |
| 黄斑浮腫 | 術後1〜3か月で起きることがある |
最も警戒すべきは 眼内炎 で、頻度は低いものの発症すれば視力低下のリスクがある重大な合併症です。術前後の抗菌点眼を指示通りに使うことが予防の基本です。
手術後の生活
翌日から可能なこと
- 通勤・通学
- 食事
- 読書(疲れない範囲で)
- テレビを見る
- 軽い家事
1週間以内に避けたいこと
- 眼に水が入る入浴(洗髪は美容院や下向き洗髪で対応)
- 激しい運動
- 重い物を持つ、強い前傾姿勢
- 眼をこする
2〜4週間以内に避けたいこと
- 水泳、サウナ、岩盤浴
- 激しい接触スポーツ
- 顔のメイク(目元中心)
制限が解ける目安
- 2〜4週間で日常生活はほぼ通常通り
- 1〜3か月で本格的なスポーツも再開可能
メリットとデメリット
| メリット | 視力が大幅に回復 / 日帰り・短時間 / 確立された手術 / 高い安全性 / 保険適用 |
| デメリット | 不可逆的(術後やり直しは難しい) / まれに合併症 / 術後点眼の手間 / 適切な眼内レンズ選びが重要 |
よくある質問
Q. 白内障手術は痛いですか?
A. 強い痛みはほとんどありません。点眼麻酔のみで行うため、「光がまぶしい」「水が流れる感覚」を感じる程度です。「思ったほどではなかった」「楽だった」という感想を多くの患者さんがおっしゃいます。ご心配な方は鎮静薬を併用するクリニックもあります。
Q. 日帰りで本当に大丈夫ですか?入院は必要ない?
A. 日帰り手術が標準 です。手術自体が短時間で、術後の安静も限定的だからです。ただし、お一人で通院が困難な方や全身状態に注意が必要な方は、1〜2泊の短期入院を選べる施設もあります。
Q. 何歳まで手術を受けられますか?
A. 明確な年齢上限はありません。90代、100歳でも手術を受けられる方がいます。重要なのは「術後の生活の質を上げる利益が、手術リスクを上回るかどうか」です。年齢ではなく、全身状態と生活への影響で判断します。
Q. 両眼を同時に手術できないのですか?
A. 通常は片眼ずつ、1〜2週間空けて手術 します。これは、万が一の感染や合併症のリスクを片眼にとどめる安全策です。一部の施設では同日両眼手術を行っていますが、慎重な判断が必要です。
Q. 手術後、また白内障になることはありますか?
A. 一度取り除いた水晶体は再び濁ることはありません。ただし、術後数か月〜数年で「後発白内障」と呼ばれる、レンズを支える袋の濁りが起こることがあります。これは YAGレーザーで数分で解消 できますので、心配はいりません。
Q. 緑内障や糖尿病もあります。白内障の手術は受けられますか?
A. 多くの場合、受けられます。緑内障の方は白内障手術と同時に MIGS(低侵襲緑内障手術)を行うこともあります。糖尿病の方は、網膜症の状態を眼科で確認した上で進めます。「他の眼疾患があるから手術できない」と決めつけず、相談してください。
Q. 術前後のメガネはどうすればよいですか?
A. 手術後はメガネが合わなくなるため、術後3か月以降にメガネを作り替える のが基本です。それまでは古いメガネを使うか、必要に応じて一時的なメガネを使います。
Q. 手術は何日くらい仕事を休めばよいですか?
A. デスクワークなら2〜3日、現場仕事や顔を洗う頻度が多い仕事なら1週間程度 が目安です。職業によって違うので、術前に担当医と相談してください。
白内障手術は、日本で最も多く行われている眼科手術 で、技術と安全性が確立されています。一度はためらう気持ちがあるかもしれませんが、適切なタイミングで受ければ、多くの方が以前の見え方を取り戻されています。
「いつ受けるか」は数字ではなく 「生活の不便さ」 が判断軸。気になる症状があれば、まず一度眼科で相談してみてください。
白内障そのものの全体像は 白内障の解説ページ、眼内レンズの選び方は 多焦点眼内レンズの解説 をあわせてご覧ください。