「抗VEGF注射だけでは効果が不十分」「ポリープ状脈絡膜血管症と言われた」――こうした特定の加齢黄斑変性の患者さんに使われることがある治療法が 光線力学療法(PDT) です。
光線力学療法は、光感受性のお薬を注射し、その後に弱いレーザーを照射 することで、異常な新生血管だけを選択的に閉鎖する治療です。2000年代に登場し、抗VEGF療法以前は加齢黄斑変性の主治療でした。現在は 抗VEGF注射の補助 として、特定のケースで使われています。
このページでは、患者さんからよくいただく「どんなときに使う?」「抗VEGFと何が違う?」「治療後に注意することは?」といったご質問にお答えする形で、PDT について整理してご説明します。
光線力学療法(PDT)とは
PDT は Photodynamic Therapy(光線力学療法)の略で、次の2つを組み合わせた治療です。
- 光感受性のお薬(ベルテポルフィン、商品名ビスダイン)を腕の静脈から注射
- 15分後、眼に弱い波長のレーザーを 83秒間照射
薬剤は 異常な新生血管にだけ集まる 性質があり、そこにレーザーを当てると、薬剤が活性化して血管を選択的に閉鎖します。正常な網膜には影響を与えないのが大きな特徴です。
| 治療 | 仕組み |
|---|---|
| 網膜光凝固 | 強いレーザーで網膜の組織を直接焼く |
| PDT | 弱いレーザー + 薬剤で、新生血管だけを選択的に閉鎖 |
つまり、PDT は「新生血管を狙い撃ちする」、より選択性の高い治療です。
適応:こんな方に向く
主な適応は 滲出型加齢黄斑変性 ですが、現在は抗VEGF注射が第一選択になっています。PDTは以下のような特定のケースで使われます。
適応となる状況
- ポリープ状脈絡膜血管症(PCV) ― 加齢黄斑変性の亜型、日本人に多い
- 抗VEGF注射で効果が不十分なケース
- 抗VEGF注射と PDT の併用治療
- 中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の長期化例(限定的)
あまり適応にならない方
- 抗VEGF注射のみで十分にコントロールできている方
- 一般的なドライ型(萎縮型)加齢黄斑変性
- ポルフィリン症の方(薬剤の作用機序上禁忌)
- 重度の肝機能障害
- 妊娠中・授乳中
日本ではポリープ状脈絡膜血管症(PCV)という亜型が多く、PCV では 抗VEGF + PDT の併用 が良い結果を出すことが報告されています。
治療の流れ
1. 術前検査
- 視力検査・眼圧検査
- 眼底検査
- OCT検査
- 蛍光眼底造影検査(FA・IA) ― 新生血管の位置・タイプを正確に把握
- OCTアンギオグラフィー(必要に応じて)
新生血管の正確な位置とタイプ(PCVかどうかなど)を把握することが、PDTの効果を最大化する鍵です。
2. 治療当日
- 体重に応じた量のベルテポルフィン(ビスダイン)を 腕の静脈から10分かけて点滴
- 点滴終了から 15分後にレーザーを照射開始(計算された時間)
- 専用のレンズを眼に当てて、83秒間(これは決まった時間)レーザー
- 全体の所要時間 約1時間
- 多くは外来で完結
3. 治療後
- 48時間は強い光から眼と皮膚を守る ことが重要
- サングラス、長袖の服、帽子を着用
- 屋内でも明るすぎる場所を避ける
- 翌日からは通常の活動はおおむね可能
- 抗炎症点眼を1〜2週間
- 1か月後、3か月後に効果判定
4. 治療後の光過敏症
PDT の最大の特徴は 「光過敏症」 です。点滴したお薬が体内に48時間ほど残り、その間に強い光に当たると、肌が日焼け・やけど状態になる可能性があります。
- 直射日光は避ける
- 室内でも蛍光灯の真下を長時間避ける
- 窓ガラスを通した日光でも注意
- 手術・抜歯などで強い照明を浴びる予定は避ける
48時間が過ぎれば、通常の生活に戻れます。
費用の目安
保険適用 です。3割負担の方の場合:
| 項目 | 費用イメージ |
|---|---|
| PDT 1回(薬剤費+処置料) | 約8〜15万円 |
| 高額療養費制度適用後 | 自己負担上限まで |
ベルテポルフィン(ビスダイン)が高額な薬剤のため、抗VEGF注射と同等以上の費用がかかります。高額療養費制度 で自己負担額には上限があるので、必ず活用してください。
効果
期待できる効果
- 新生血管の閉鎖
- 視力の維持または改善
- 抗VEGF注射との併用で、注射の効果が高まる、または投与間隔が伸びる可能性
期待できないこと
- すでに大きく失われた視力の完全回復
- 萎縮型加齢黄斑変性への効果
リスク・副作用
| リスク | 頻度・対処 |
|---|---|
| 光過敏症(皮膚) | 48時間の遮光で予防可能 |
| 視力の一時的低下 | 治療直後にかすみ、徐々に回復 |
| 新生血管の再発 | 数か月後に再発することがあり、再治療を検討 |
| 網膜浮腫 | まれ、ステロイド併用で対処 |
| アレルギー反応 | まれ |
| 注射部位の痛み | 通常軽度 |
最大の注意点は 光過敏症 で、48時間の遮光徹底が必須です。
メリットとデメリット
| メリット | 新生血管を選択的に閉鎖 / 抗VEGFとの併用で効果向上 / 一定期間効果が持続 / ポリープ状脈絡膜血管症に有効 |
| デメリット | 48時間の遮光が必要 / 効果が限定的なケースも / 費用が高い / 蛍光眼底造影など事前検査が複雑 |
よくある質問
Q. 抗VEGF注射と PDT、どちらを受けるべき?
A. 多くの方は抗VEGF注射が第一選択 です。PDT は、ポリープ状脈絡膜血管症 や 抗VEGFで効果が不十分なケース で検討されます。担当医が個別に判断します。
Q. 抗VEGF注射と PDT を両方受けることはありますか?
A. はい、併用治療があります。「抗VEGF + PDT 併用療法」と呼ばれ、特にポリープ状脈絡膜血管症で良い効果が報告されています。注射の頻度を減らせる可能性もあり、近年見直されている治療法です。
Q. PDT 治療後、なぜ48時間も光を避ける必要があるのですか?
A. ベルテポルフィン(ビスダイン)が体内に 48時間ほど残り、その間に強い光に当たると皮膚や眼の正常組織にも作用してしまうためです。日焼けのような皮膚障害 が起きる可能性があります。48時間を過ぎれば薬剤は体内から排泄され、安全です。
Q. 妊娠中でも PDT は受けられますか?
A. 妊娠中・授乳中は受けられません。ベルテポルフィンの安全性が確立されていないためです。可能であれば、出産・授乳が終わってからの治療が望ましいです。
Q. PDT は何回受けられますか?
A. 必要に応じて繰り返し可能 です。多くは3か月後に効果判定し、新生血管が再活動している場合は再施行を検討します。年に1〜数回受けることもあります。
Q. 光過敏症の48時間って、どこまで暗くする必要がありますか?
A. 完全な暗室は不要 です。ポイントは:
- 直射日光を避ける(屋外は完全遮光の服装、サングラス必須)
- 窓際も避ける(レースカーテン1枚では不十分、遮光カーテン推奨)
- 強い室内照明(蛍光灯の真下、手術ライト等)を長時間避ける
- テレビ・スマホの画面は問題なし(通常の弱い光)
担当医・看護師から具体的な指導があるので、不安なく従ってください。
光線力学療法(PDT)は、特定の加齢黄斑変性、特にポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対する有力な選択肢 です。抗VEGF注射の補助・代替・併用としての位置づけが明確になり、近年見直されている治療です。
48時間の遮光は確かに大変ですが、得られる視力維持効果と引き換えと考えれば、十分に取り組む価値のある治療です。担当医とよく相談し、ご自身の病状に最適な治療を選んでいただければと思います。
加齢黄斑変性そのものの解説は 加齢黄斑変性の解説ページ、抗VEGF注射との比較については 抗VEGF注射の解説ページ もあわせてご覧ください。