「点眼薬で眼圧が下がりきらないが、本格的な緑内障手術には踏み切れない」「白内障の手術を予定しているけれど、緑内障もある」――こうした患者さんに、近年急速に普及しているのが MIGS(ミグス、低侵襲緑内障手術) です。
MIGS は Minimally Invasive Glaucoma Surgery(低侵襲緑内障手術)の略で、従来の緑内障手術(線維柱帯切除術など)より 傷が小さく、合併症リスクが低く、回復が早い のが特徴です。特に 白内障手術と同時に行える ため、「ついでに眼圧も下げる」というアプローチが可能になりました。
ただし、効果は従来手術より緩やか、自由診療になるデバイスもある、適応に制限がある、といった注意点もあります。
このページでは、MIGS の仕組み・主なデバイス・適応・流れ・効果と、患者さんからよくいただくご質問にお答えする形で、MIGS について整理してご説明します。
MIGSとは
MIGS は、従来の緑内障手術と現代の白内障手術技術を組み合わせて、より低侵襲に眼圧を下げる新世代の手術です。
特徴をまとめると次のとおりです。
| 項目 | 従来の緑内障手術(線維柱帯切除術等) | MIGS |
|---|---|---|
| 切開のサイズ | 大きい | 小さい(白内障切開と同じ程度) |
| 手術時間 | 30〜60分以上 | 白内障+10〜20分程度 |
| 入院 | 多くは入院 | 多くは日帰り |
| 合併症リスク | 比較的高め | 低い |
| 眼圧降下効果 | 強い | 中等度 |
| 適応 | 中等度〜重度緑内障 | 軽度〜中等度 |
| 白内障手術との同時施行 | 通常別 | 同時施行が一般的 |
MIGS は「白内障手術のついでに眼圧も下げる」「点眼の本数を減らす」というポジションで、軽〜中等度の緑内障の方に向いた治療です。重度の緑内障や、眼圧を大きく下げる必要がある場合は、従来の線維柱帯切除術などが優先されます。
主なMIGSデバイス・術式
日本で使われている代表的な MIGS デバイス・術式は次のとおりです。
| 名称 | 種類 | 特徴 |
|---|---|---|
| iStent / iStent inject | ステント | 線維柱帯に小さな金属ステントを挿入。最も普及 |
| Hydrus Microstent | ステント | 線維柱帯にメッシュ状のデバイスを挿入 |
| Kahook Dual Blade(KDB) | 切開器具 | 線維柱帯を切除する手技 |
| Trabectome | 焼灼器具 | 線維柱帯を切開・焼灼 |
| マイクロフックロトミー | 手技 | 細い器具で線維柱帯を切開 |
これらはいずれも 房水(目の中の水)の流出経路を改善 することで眼圧を下げます。
適応:こんな方に向く
向く方
- 軽〜中等度の開放隅角緑内障(POAG)、正常眼圧緑内障(NTG)
- 白内障の手術を予定している(同時施行が効率的)
- 点眼薬の本数を減らしたい
- 点眼薬の差し忘れや副作用に困っている
- 重い緑内障手術には踏み切れない
- 眼圧の目標値が中等度の引き下げで足りる
あまり向かない方
- 重度の進行緑内障(線維柱帯切除術など、より強力な手術が必要)
- 閉塞隅角緑内障(隅角が狭いため適応外のことが多い)
- 強い炎症や眼内疾患の活動期
- 全身状態が悪い
「白内障手術を予定していて、緑内障も併存している方」に最も適応があります。白内障手術なしで MIGS 単独で行うことは少なく、多くは併施されます。
手術の流れ
1. 術前検査
- 視力検査・眼圧検査
- 視野検査
- OCT検査(視神経の状態)
- 隅角検査(MIGSの適応判定に重要)
- 角膜厚・角膜内皮細胞数
- 眼底検査
2. 手術当日
- 多くは 白内障手術と同時 に行う
- 点眼麻酔(まれに局所麻酔追加)
- まず白内障手術(超音波水晶体乳化吸引+眼内レンズ挿入)
- 続けて MIGS デバイスを線維柱帯に挿入、または線維柱帯を切開
- 追加所要時間 5〜15分程度
- 多くは日帰り
3. 術後経過
- 翌日から視力は改善(白内障手術の効果)
- 眼圧の安定化には数週間〜数か月
- 抗菌・抗炎症点眼を1〜3か月続ける
- 点眼薬は 減らす方向に調整(完全に止められる方も)
- 定期的な眼圧チェック
費用の目安
保険適用(白内障手術同時施行)
3割負担の方の場合:
| 項目 | 費用イメージ |
|---|---|
| 白内障手術費 + MIGS加算 | 約8〜15万円(片眼) |
| 両眼合計 | 約16〜30万円 |
| 高額療養費制度適用後 | 自己負担上限まで |
iStent や Hydrus といったデバイスを使う MIGS は 保険適用 が基本です(2016年から)。
自由診療
- 一部の最新デバイスや術式は自費の場合あり
- 施設によって異なる
医療費控除の対象です。高額療養費制度も活用できます。
リスク・合併症
MIGS は 比較的安全性の高い手術 ですが、ゼロリスクではありません。
| リスク | 頻度・対処 |
|---|---|
| 一時的な眼圧上昇 | 一過性、点眼で対処 |
| 出血(前房出血) | 多くは自然吸収、ステント挿入時に少量出ることが多い |
| 眼内炎(感染) | 極めてまれだが重大 |
| デバイスの位置ずれ | まれに再手術 |
| 眼圧降下効果が不十分 | 追加の点眼や手術が必要なケース |
| 角膜内皮細胞の減少 | 長期的な観察が必要 |
合併症の頻度は線維柱帯切除術などの従来手術より低く、安全性は確立されつつあります。
メリットとデメリット
| メリット | 低侵襲・短時間 / 白内障同時施行可 / 保険適用 / 合併症リスク低 / 点眼薬を減らせる |
| デメリット | 効果が中等度(重症緑内障には不十分) / 適応に制限 / 効果に個人差 / 高度進行例には不向き |
「白内障も緑内障もある中高年」にとっては、特に魅力的な選択肢です。
よくある質問
Q. 白内障の手術を受けるなら、MIGS も一緒にすべきですか?
A. 緑内障があるなら、検討する価値が大いにあります。白内障の切開を使って MIGS が追加できるため、患者さんの負担増は少なく、点眼を減らせる可能性があります。緑内障があっても症状が軽い、点眼で十分に眼圧コントロールできている方は、必ずしも必要ではありません。担当医と相談してください。
Q. MIGSで点眼薬は完全に止められますか?
A. 個人差があります。点眼を1〜2本減らせる、もしくは完全に止められる方もいますが、点眼を続けながら追加の効果として使うケースも多いです。「点眼を減らす可能性のある治療」と理解するのが現実的です。
Q. MIGSと従来の緑内障手術(線維柱帯切除術)、どちらが良い?
A. 病状の重さで使い分けます。軽〜中等度なら MIGS が低侵襲で第一選択になり得ますが、進行した緑内障や眼圧を大幅に下げる必要がある場合は、線維柱帯切除術などのより強力な手術が必要です。担当医が個別に判断します。
Q. iStent と Hydrus、どちらが良い?
A. 両者とも有効性は確立されており、大きな優劣はない とされています。施設によって採用しているデバイスが異なります。担当医が患者さんの病状に合わせて選択するため、デバイスを指名する必要はあまりありません。
Q. MIGS後にも定期受診は必要ですか?
A. 必要です。緑内障そのものが治ったわけではなく、進行を抑えている状態なので、術後も眼圧と視野の定期チェックは欠かせません。点眼薬の調整、追加治療の必要性を見ながら長く付き合っていく治療です。
Q. MIGS は閉塞隅角緑内障にも使えますか?
A. 基本的には開放隅角緑内障が対象 です。閉塞隅角緑内障では隅角が狭く、MIGS デバイスを正確に置けないことが多いため、まず白内障手術や LI で隅角を開いてから、必要に応じて MIGS を検討します。
MIGS は、「白内障も緑内障もある中高年」にとって、両方を一度に解決できる現実的な選択肢 として急速に普及しています。低侵襲で安全性が高く、保険適用(多くの術式で)というメリットは大きいです。
ただし、効果は中等度で、重症緑内障には不十分なこともあります。自分の緑内障の進行度と、生活の優先順位を踏まえて、担当医と相談しながら選択 することが大切です。
緑内障そのものの解説は 緑内障の解説ページ、白内障手術全般については 白内障手術の解説ページ もあわせてご覧ください。